kabao「ブザービーター」

 涙の余韻が残る私たちは浅い呼吸のまま、混雑したハンバーガー屋の狭い座席に二人きりで居た。汗だらけで抱きしめあって、悔しさを大声で叫んで、そんな「本当」を晒し合った後だから、どうも気恥ずかしくて、部長の顔を見ることができないで、氷の溶けたオレンジジュースのことばかりを眺めていた。

 うるさいはずの店内が静かに思えてしまうくらい、鼓膜には、体育館に反響する応援歌や、踏みしめたバッシュの鳴き声、それから、敗戦を告げるブザーの音と、部長の悔しそうな泣き声が、まだ残響していた。

 今日の敗戦で、私たちの「大会」が終わった。三年生は部活を引退する。部長を部長と呼べるのは、今日まで。明日からは私が部長になる。先代から次代への引継式みたいなものを、私たちはひっそりと、隠れるみたいに、二人きりで、やっていた。部長との距離が限りなく近くなる、そんな今日のために私は一生懸命バスケをやってきた気がする。――ちょっと不純だけど。

「そうだ、寄せ書き。まだもらってない」

 もうほとんど氷水になっちゃってる、ノンシュガーの紅茶を――いつものバニラシェイクじゃない――小さく小さく飲みながら、部長は、ボロボロの、シューズケースを取り出して笑った。

「そうでしたっけ」
「そうよ。真ん中の一番良い所をあなた用にあけてあるんだから」

 私は、中途半端な声で笑う。寄せ書きをする。
 ――そんな、終わりを形にするような儀式が、私には耐えられないことだったし、ピンクのケースに書ける金色のマジックを用意していることが、腹立たしくもあった。

 ――この言葉は、私たちの関係を清算する言葉だ。
 だから、書きたいことを、書いてしまえと思った。

「来年の大会、見に来てくださいよ。優勝するんで」
「うん。君が部長なら――」
「違います。部長が見に来てくれたら、私が頑張れるんで」

 私は、「あなたのことを愛しています」と書いた寄せ書きを机に伏せて、そう言った。

作家コメント
友だちがお店で目撃した百合の球根に水と養分を与えて開花させてみました。
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