繁忙期の為11月中の更新はお休みさせていただきます。次回12月5日の更新となります。

ATライカ「待つ人」

 梅雨直前のぬるい陽気がカーテンを揺らして部屋へ吹き込んでくる。窓際に座る私はそれに雨の匂いを感じながら、遠くの山を見ていた。
「まだかしら」
 少しだけ目線を下げて玄関と庭を見る。偶々通りがかった庭師がこちらに頭を下げてきたので、私は手を振り返す。最愛の人がわが部屋に来る時間はとうに過ぎている。このままではせっかく淹れておいた紅茶が冷めてしまうではないか。
「風に乗って会いに行ければいいのに」
 もしくは、彼女が風に乗って私に会いに来るか。そんな空想をしていると、小さな雲が太陽をその影に隠す。今日は彼女に雲のことを質問してみようかな、なんてことを暇つぶしに考える。
 一通り取り留めのないことを考えた後、机に手を伸ばして本を取り適当な頁を開いた。そして、音読する彼女の声を思い出しながら本をめくる。いつの間にか太陽は顔を出していた。

ホーホケキョ……鶯の声だ。
どうやらうたた寝をしていたらしい、鶯の声で少しだけ目が覚めた。そして、目も開けずに鶯達鳥の声を聴いていると、甘い花の彼女の匂いがした。頬に感じる指先の感触、彼女の指の感触も。
暖かい。まだ雨は降っていない。だからもう少しだけ、目を瞑っておくことにしよう。

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