dolche「バンバンジーと回転卓」

「中華料理のテーブルってどうして回るの?」
「なんでそんなこと聞くんですか?」
「いや、なんで回すんだろって」
まだサラダも来ていない手持ち無沙汰な先輩と私は目の前の中華テーブルを回す。
先輩は私たちオーケストラ部のリーダーだった。就職して二年、エンジニアになった先輩は最近働き詰めで疲れているみたいだ。そういえば先輩と二人でご飯を食べるのも久々だった。
「自分で選びたいんじゃないですか?」
「回転寿司でいいじゃん。全部自動で」
「でもそれはやっぱ味気ない気がします。日本っぽいっていうか。それに回転寿司は私たちは選んだり、待ったりしなきゃいけないですが、これなら選びたいときに回せばいいっていうのが…」
「選ぶ楽しみか。でも四川料理が辛いのはそういう思考能力を奪うためだって聞いたことある」
「先輩、それ証拠あるんですか?」
「でもほら、本格的な火鍋を食べるときって何も考えられなくない?」
「あ、きましたよ、とりあえずバンバンジー」
「おいしいね。うんおいしい」
先輩はとても美味しそうに頬張る。ほんの少し前まで見せてくれなかった、部活のときとは違う緩みきった表情を先輩はわたしにさらけ出したくれる。いまの先輩は本当に私より年上なんだろうか。
「ねぇ、あんたはまだ楽器触ったりしてる?」
私は答えない。
「ねぇ。回そうよ」
テンションの上がった先輩はまた円卓を回す。先輩の笑顔をみて私は安心する。
「全自動新型中華卓みたいなものがあってもいいんじゃない?中華三千年の歴史を更新しよう」
「いや自分たちで回すからこそ楽しいんだと思いますよ、二者択一を選ばせ続ける日々にほんの少しのランダム性が…」
「なんか、それ彩りって感じだね、だから中華はカラフルなのかも」
ふざけながら私たちは中華卓を回す。少しだけはやく。そんなに高くない街の中華で。

作家コメント
くたびれたお姉さんと街の中華料理食べに行きたい欲が高まったので書きました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA