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玉置こさめ「アリス」

アリス

君はアリス。私を追いかけて。
夕暮れの教室、これから約束に赴こうという放課後。
ただのクラスメイトの仲間内のカラオケの約束。
たまたま学級日誌の当番だったのに、二人で遅刻。
連れ立って歩き出そうとしたらその子は立ち止まった。
出会いは料理研究会。同じクラスであることに同じ同好会に入ってから気付いた。
目立たない女の子。黒い髪をおさげにして、おとなしい顔立ち。ただ、その指から生まれたお菓子は特別。スフレもガレットも童話に登場しそうなくらいの光を放つ。
その魔法は私の心をとらえた。彼女は言う。お菓子も勉強もお姉ちゃんから教わるの。
お姉さんってどんな人? って聞いてみればもうその語りはとまらない。
ほかのお友達が少ない理由もそのお姉さんのおかげだと直感した。
私だって母の家事の手伝いをしてるから少しは料理できる。同好会なんて花嫁修業のつもり、みんなそうだと思ってた。けれども彼女の手腕には誰もが閉口してしまった。つまり浮いてた。良かれと思ってクラスの仲間と引き合わせようとしたの。人前で歌うことなんてできない。真っ赤になってその子は言う。ごめんね、私をつれていく必要ないわ。本当は最初から断るべきだった。高校にあがったら友達をつくりなさいって、お姉ちゃんが。
約束の時間はもうすぐに迫っていて、今更そんなことを言うなんて。
「君のお姉さん、友達との約束を君に我慢させて喜ぶような人?」
その子はむっとした。違うと強く否定する。怒るように。そんな顔初めて。
私は急激に落ちていく。深い穴に。
君は甘えん坊のお昼寝中のアリス。急いでいる兎の足音を見逃さないで。
手を差し出した。
「行きましょう、君の好きな君の行きたいところに」
そう伝えたら不思議そうな顔をする君こそ、私には不思議。
君はお姉ちゃんの鏡ではないのよ。覚えてね。
君はアリス。私を追いかけて。
ほら、横切るわ。
夕暮れの教室。おずおずと私の掌に置かれた指を、強く握り締めた。

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