繁忙期の為11月中の更新はお休みさせていただきます。次回12月5日の更新となります。

ATライカ「春先にて」

 遠くの雪溶けた山の上を、雲が形を変えて流れていく。田植えを待つ田んぼは茶色く、一部ではもう水も張られ始めていた。そんな障子窓によって切り取られた田舎の春の風景の中に、布団を干す一人の女性がいる。私はそんな彼女を見ていた。
「手伝ってくださいよ」
 布団を干し終わった彼女が振り返り、縁側の方まで歩いてくる。
「綺麗だなぁって思って」
 私が素直に思ったことを言うと、彼女は唇をとがらせて少し顔を赤くした。
「女手二つなの、わかっているでしょ?」
 少し湿り気を帯びた柔らかで暖かな風が、花の香りを吹きこんできた。
「もう、春だねぇ」
 私はそう言いながら、後ろに倒れこみ寝転がる。
「まったく、ぐうたらなんですから」
 足音が縁側、畳、私の隣へと移り、彼女が覗き込んできた。その表情は春の日差しのように柔らかい。
「少し昼寝でもしようよ」
 私が隣を指しながら言うと、彼女は少し呆れたような仕草をしてやおら寝転がる。私はその途中で彼女の頭の後ろに腕を置き「枕」と囁いた。彼女は体をこちらに預けて、少し笑った。
 彼女の重みと息遣い。それから葉が揺れる音を聞きながら、私は目を瞑る。

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