夢見絵空「もしも彼女が死んだなら」

 彼女はよく「うふ」と笑う。上品なくせして、なぜか親しみ安さを感じさせる、不思議な笑い方だった。
 夕陽の橙色に染まった教室に二人でいると、その声がよく響き、鼓膜を、脳を、心を直接揺さぶってくる。
「ねえ」
「なんだ」
 私と彼女以外、誰もいない放課後の教室。校内には部活をしている連中がいくらでもいるはずなのに、彼女といるとなぜかその存在さえ感じることができない。
 圧倒的で、絶対的な存在を誇る黒髪の少女が、目の前で机に乗せた手に顎をのせて、甘えるように首を傾けてくる。
「明日、私が死んだらどうする?」
「……くだらない」
 今どき、小学生でもしないような質問。だから一蹴してやったのに、その瞬間、笑みを浮かべていた彼女の顔が強張り、膝の裏で椅子を倒し、ガタンッと音を立て、立ち上がった。
 そして座ったままの私の顔を両手で挟んだ。力は入っていない。ただ、細くて柔らかい指先が頬や耳、髪の毛などサァァーッと撫でるように触れてくるので、それで全身が固まってしまう。
 彼女はそのままぐいっと私の顔の前に自分の顔を持ってきて、キスでもしそうなほど近づいてきた。
彼女の息遣いさえ感じられる距離、視界には彼女しか映ってない。
「ねえ」
 さっきと同じ呼びかけなのに、さっきよりも声がとろけそうなほどに甘い。
「明日、私が死んだらどうする?」
 また顔を近づけてきて、お互いの鼻先が触れ合うと僅かな体温を感じてしまった。
 口の中が乾いていたのに、なぜか唾は飲み込めた。
 わかってる。彼女の欲しているものは、わかってる。でも、彼女のこういうところが気に入らない。無理やり、自分の求める答えを引き出そうとするところが、好きじゃない。
 だから精一杯、唇を釣り上げて笑った。
「笑ってやる」
 彼女はその答えに目をぱちくりとさせた後、また「うふ」と笑った。その生温かい吐息がかかる。
「そういうところ――だぁい好き」
 彼女が更に顔を寄せてきた。

作家コメント
艶めかしい感じの作品にしたいと思い、過去に作品のキャラを用いて書いてみました。
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