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藍瀬青「金曜日の夜のケモノたち」

 金曜日の夜、わたしは人間をやめる。黄赤色の犬になる。ポンカくん。すこし前に一部の界隈で話題になったアニメの登場人物だ。人語を解し二足歩行で歩く麗しき柴犬。わたしは指示されるままにポーズを作り、黒と赤の瞳を恋人に向ける。
 わたしは彼女の犬だ。
 仁王立ちのポンカくん(ご主人様に手は出させねえぜ!)、お昼寝中のポンカくん(ご飯のあとは寝ないとな!)、ボールを追いかけたいのにじっと我慢するポンカくん(そこらの犬とは違うんだよ!)。
 シャッター音のたびにいろんなポーズを指示され、終わるころには疲れ果てていた。ポンカくんの着ぐるみを脱ぐと蒸れた汗の匂いが鼻をついた。
「お疲れ~」恋人は満面の笑みを浮かべて「今日も最高だったよ!いいポンカくんだった!」
 頭を撫でられる。絶対にいまのわたしはにおう。臭い。でも彼女はいつも気にすることなく、汗だくになったわたしの髪をかき乱した。

 わたしの恋人はケモナーだった。好きなキャラクターのきぐるみを買い、それをわたしに着させて写真を撮るほどに。
「美穂、すごいよ。もう50以上いいねされてる!」
 背後から抱かれるようにしてわたしは彼女と浴槽につかっていた。彼女の胸と太ももが背中や腰にあたって落ち着かない。「ほら、見て」
 胸が強く背中に押し付けられたかと思うと、うしろから防水ケースに入ったスマホを差し出された。
「今日のベストショット!」
 写っているのはわたしの後ろ姿だった。きぐるみの体部分だけ身にまとい、ポンカくんの頭部を両手で抱えている。うつむいているせいだろう。ポンカくんに口づけているように見えた。キャプションにはこう記されていた。
――金曜日の夜、きぐるみを着て君に会いに行く。
「なにこれ」
 嘘もいいところだ。きぐるみは彼女の部屋に用意してある。だいいちきぐるみを着てから移動なんてわたしにはできない。
「美穂の心の声を代弁してあげたの」
「耳鼻科に行ったほうがいいよ。心の」
「ひどっ」
 彼女にもたれかかる。
「心の声、聞いてみて」
「……聞こえた」
 恋人は濡れた指でわたしの髪を撫で、口づけた。

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