村崎アオ「鳥籠の鍵は開かれた」

瞼を刺す日光で眼を覚ました。
見覚えのない内装が眼に入って思わず身体を起こした。
昨日、初めて飲んだお酒が私の頭を揺らし、白い下着姿でコーヒーを淹れている先輩と昨晩このラブホテルで混ざったときの匂いが鼻まで届いた。
床には私と先輩の服が色気も無く脱ぎ散らかっていた。

 正直、昨晩の飲み会のことはあまり覚えていない。
「コール」が鳴り響く店内で、度数の強いカルアミルクを顔が赤くなるまで飲み、「大丈夫です。」と強がる私に、耳元で「可愛い」と囁いた先輩の仄明るい顔と香水の匂いは覚えている。でも、ベッドの上で私にまたがる先輩の顔は、薄暗い照明のせいで良く覚えていない。
時間は午前9時半。入学して5日目。その日初めて私は大学をサボった。
 
 慣れた足取りで歌舞伎町をズンズン進む先輩。一方、手を引かれた私は道端には倒れたサラリーマンや「夢の跡」が散乱している道に嫌悪感を抱きながらキョロキョロしていた。
繋いだ手から私の様子を感じ取ったのか、「新宿初めてだっけ?」と振り返って先輩が聞いてきた。
「こ、怖いところですね。」と言うと、「最初は私もそう思ってたよ。」「その感じ懐かしい!」と私じゃない誰かに話しかけるように笑いながら呟いた。

田舎から上京してきた私からすると、この1泊2日は初めてづくしだ。「新宿」「飲酒」「ラブホテル」「セックス」。昨晩のことを考えれば考えるほど恥ずかしさがこみ上げてくる。
いや、だって。今、私の指と絡まっている先輩の指が、私の中に入っていたわけで…

そんなことを考えていると東口に着いた。手汗のせいか、いつの間にか手は離れていた。
「今日は2人で自主休校しようよ!」爛々とした目で先輩が言う。
「自主休校って何ですか?」
「じゃあ決定!渋谷行こっか! 初めてだよね?」
私の質問は無視して、嬉しそうにJRの改札を通る先輩。
私は向かってくるサラリーマンたちを避けて、一昨日作ったパスモを改札にかざした。

作家コメント
ガレットONLINE始動ということで「始まり」っぽいお話を!
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