巫夏希「ここでキスして。」

 放課後の屋上。
 ここが私たちの秘密の隠れ家だ。
「……真面目な生徒会長サマが生徒会活動を休んでまで秘め事とは、どういう了見カナ?」
「いいでしょ。……アンタだって、乗り気じゃない」
 メガネをかけたツインテールの彼女は、顔を真っ赤にして私の隣に座っている。
 生徒会長の彼女は品行方正でいて容姿端麗。教師からの評価もオール満点。非の打ち所がない、完璧な存在。
 対して私は教師からは鼻つまみ者扱い。評価も一番高くて五段階評価の真ん中。スカートも短ければ煙草だって吸う。自分で客観的に見ても、良い学生とは言えやしない。
 そしてこの屋上を、私たちは、もう使われなくなった旧型の椅子を、教室から持ち出して、秘密基地のようにしている。
 それが私たちの――一見釣り合うはずのないでこぼこな存在の二人の――、放課後の楽園。
 屋上の鍵はとっくに壊れているのだけれど、それを直すこともしないし、そもそもそれは誰も知らない。
 生徒会長が放課後に屋上で愛を育んでいる、なんて言ったらどれくらいの学生が驚くことやら。
「ねえ……。どうしたの、上の空だけど」
「うん? ちょっと考え事、してた」
 彼女の言葉を、私は待ってる。
「ねえ、キスして」
 まるで餌を欲しがる犬のように。
 もし彼女に尻尾が生えていたら、激しく振られていたはずだろう。
 だから、私は応えてあげるのだ。
 彼女の顎を手でクイと持ち上げ――口づけを交わす。
 それは、私と彼女の――二人だけの秘密。

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