イウよね。「覚悟の愛」

 妹の美紀が自殺に失敗して、もう十年になる。
 自宅のマンションから飛び降りてから、ずっと眠り続けている。
 最後に聞いた言葉は、私への告白だった。
『私はお姉ちゃんに全てを捧げれる。大好きなの、世界で一番、大好きなの!』
 熱い吐息に任せて、私を抱きしめようと首筋に這う手を払いのけた。私がどんな表情をしていたのか……、たぶん、そのあと私の顔を見て怯えた美紀の顔と似たようなものだったろう。
 怖くなって私が自室に戻った後、美紀は落ちていた。発見が遅れて病院に運ばれて以来、私はここで眠る美紀しか見ていない。
 春の海のように暖かく生を感じさせながら、どこまでも深い静けさは人の思慮を超えた安らかな死を思わせる。
 くすんで伸びた髪をしょきしょきと鋏で整えて、ぱちんぱちん、爪を切って、濡れタオルで白い柔肌を湿らせていく。
 管に繋がれた体はそれでも確かに生きていた。生の証をありありと残し、私に見せつけていた。
 私に全てを捧げ、私に否定されて全てを捨てようとした、馬鹿な妹。
 彼女が今も失い続けているのなら、十年付き合ってきた私も、美紀に全てを捧げている。
 青春も、恋も、仕事も、友達も、何もかも美紀のために蔑ろにしてきた。
 美紀の機械周りも慣れたもので、そっと呼吸器を外し、僅かに息がする口元にそっと、私はキスをした。
 王子様のキスならきっと目覚めるだろう。
 もう全てを捧げなくていい。貴女の想いに見合うほど、私も貴女に捧げた。
 貴女の覚悟を見た。
 私の覚悟を見て。知って。
 私にも伝えさせてほしい。
 その目を覚まして。
 その耳で私の言葉を聞いて。
 その口で私に愛をもう一度。
 ……呼吸器を戻しても、美紀の答えは変わらない。沈黙と静寂は熱情に囚われる私をどこまでも冷やしていく。
 それでも、私は諦めない。貴女のように、私も全てを捧げ続ける。

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