渡里「恥知らず恋知らず」

 生まれて初めて告白されたとき、こみ上げる吐き気を堪えるのに必死だった。
 ただのクラスメイトであった彼から、そんな風に見られていただなんて、思いもしなかったから。
 彼のことは嫌いじゃなかった。たまにしか話すことはなかったけれど、穏やかな、どこか暖かみのある言葉遣いには、好感すら覚えていた。
 けれど――口下手な彼が言葉を尽くしたであろう告白は、ペタペタと無遠慮に私の心に触れてくるようで。沸き立つ悪心を感じながら、自分でも不思議なくらい自然に、私の唇は笑みを象り、謝罪の言葉を紡ぐのだった。

 あの娘が転入してきたのは、そのあとすぐのことだった。
 別に特別なことは何もない。クラスメイトと変わらない、どこにでもいるありふれた女の子だった。明るくて、お喋りで、年相応の不躾さを持ったあの娘は、すぐにクラスの輪に溶け込んだ。
 あの娘の何が気になるのかは分からない。惚れた腫れたに興じる友人らに、僅かな軽蔑と、居心地の悪さを覚えていた筈だった。だのに、同じ輪の中で楽しそうに笑うあの娘を見ると、何か刺々しいものに触れた気持ちになる。
 罪悪感と自己嫌悪が、私の裡で澱のように積もっていく。かつての私が、醜い今を見下ろしている。
 私が想いを伝えたら、あの娘はどんな顔をするだろう? 優しいあの娘は、いつかの私のように、器用に拒んでくれるだろうか。
「ねえ、――」名を呼ばれ、あの娘はこちらを振り返った。卑怯な私は、続く言葉を口にしない。いつものように曖昧に笑って誤魔化すと、あの娘も怒ったふりをして、肩先で私を小突いたあと、弾けるように笑った。
 これはきっと、恋なんかじゃない。何度も何度も、自分にそう言い聞かせる。この焦がれも、いつかの誰かも、これ以上貶めたくはないから。

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